「サッカーを愛してやまない自分がいた」。サッカー日本代表の中田英寿選手(29)は3日、自身の公式ホームページ(HP)上で、ワールドカップ(W杯)予選リーグの対ブラジル戦後の感想をこう記した。試合後、ただ一人ピッチに寝転び、目に涙を浮かべていた日本の司令塔の胸の中では「傷つけないように胸の奥に押し込めてきた」サッカーへの愛情が、「心の壁が崩れ、一気にあふれ出し」ていた。突然の引退表明。それもまた、中田選手らしかった。
日本代表の健闘が期待された今回のW杯。しかし、苦戦が続き、走れないチームメートをしったするような談話を中田選手は口にした。当初から「孤高」と評され、チームの中で浮いていると見られていた中田選手。HPで「時には励まし、相手を怒らせてしまったことも。最後まで上手に伝えることはできなかった」と悔やむ。
1-4で完敗したブラジル戦の後、ピッチから起き上がり、スタンドに向かって手を上げる時、「もう一度その感情(サッカーへの愛情)が噴き上がってきた」という。半年ほど前から決めていたというW杯での引退。それを伝える場として選んだのは、自身のファンと直接結び付くHP上だった。
韮崎高校(山梨県韮崎市)サッカー部に所属していた中田英寿選手を、監督や部長として3年間指導したわかば養護学校の田原一孝校長(59)は「今はご苦労さまと声を掛けてやりたい。W杯ではパーフェクトなプレーができたと思う。引退にはさみしいという感じがする」と話す。 「これまでにない引き際だが、完全主義者の中田選手らしいと思う。体力的にはまだできても、精神的に完全燃焼したためだろう」と語るのは、「男の引き際」などの著書があるノンフィクション作家、黒井克行さんだ。「彼はいつからか、サッカーの素晴らしさや厳しさを日本のファンに伝えるメッセンジャーになっていた。その『役割』を終えたと確認できたのだろう。純粋にボールをけることを楽しみたいと思ったのも理由の一つかもしれない」と心境を推測する。
ノルディックスキー・ジャンプ選手として5大会連続で五輪に出場し、37歳まで現役を続けた原田雅彦さん(38)は「選手それぞれ考え方は違うが、引き際は中田さんの美学だと思う。彼はすべてをやり尽くした上で決心したのだろう」と語る。日本代表のみならず、海外のトップチームでプレーする中田さんの姿に「あこがれていた」といい、「我々を小躍りさせるようなプレーの数々は大変素晴らしかった」とたたえた。
漫画家のやくみつるさんは「引退の仕方まで彼らしい。もともとビジネス志向が強いと聞く。ひとつにこだわらず、いろんな世界で司令塔的な役割を演じてほしい」と、エールを送った。
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