お笑いタレント劇団ひとり(29)が初めて書いた小説「陰日向に咲く」(幻冬舎)が8日までに50万部を突破した。1月末に発売以来ロングセールスを記録。若手芸人による小説の成功で出版界では二匹目のどじょうならぬ「2人目のひとり」探しまで始まっている。
5作を収めた短編集「陰日向に咲く」は今年1月末に初版1万5000部で発売。第1週のランクは2万数千位でひとりを落ち込ませたが、徐々に売り上げを伸ばし22刷を重ねた。映画、ドラマ化の依頼が相次ぎ、近く青年コミック誌で漫画化されることも決まった。大ヒットにひとりは「どうせ売れないって悲観的な気持ちで書いたのに驚きの結果です。今後も調子に乗らず、ネガティブ思考を大切に精進します」と、戸惑いながら次回作の構想を練っている。
若手芸人による小説の成功は出版界を刺激した。7月に品川庄司の品川祐(34)が小説「ドロップ」(リトルモア)を発売したように、新たな新進作家を求める動きが出てきた。例えばある編集者は、メガネ姿が女流作家を思わせるM、人気急上昇コンビG・KのKらのセンスに着目。執筆依頼を検討している。
ひとりに小説執筆をすすめた幻冬舎の編集者は芸人の作家挑戦について、「ネタづくりのために、ストーリーを書き慣れているのが魅力」と分析する。実は約2年前、ひとりに執筆依頼した際は、ネタを集めたタレント本を編集するはずだった。しかし、書き上がった物語性のある文章に触れ、小説として加筆するよう路線変更した。
お笑いブームにも乗って、芸人作家が続く気配だ。しかし、編集者としてつかこうへい氏の「蒲田行進曲」など5作の直木賞を担当した幻冬舎の見城徹社長は、ひとりの成功はお笑いブームに左右されたものではなく、質の高さによるものだと指摘する。「切なくて、ちょっと笑えて、普段は気が付かない悲しみややさしさに気付かされる。芸人が余技で書いた小説ではない。ノミネートこそされなかったが、直木賞のレベルにある作品です」。2人目のハードルはかなり高いようだ。
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